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雑記 2008年6月9日

「3日前」は three days ago、では「3日後」は?

中学校で英語の過去形を教わるとき、普通は一緒に「~前」に当る ~ ago を習う。だから、「3日前に彼に会った」を英訳しなさいと言えば、「3日前」を英語でどう言っていいかわからないという学生はあまりいない。

  1. I met him three days ago.

という英文がわりとすんなり作れてしまう。ところが、「3日後に彼に会う予定だ」のような文を英訳させると、「3日後」のところで大抵 2 のような間違いをしてしまう。中学校で未来表現を教わるときに、「~後」に当る英語表現をきちんと習わないためである。

  1. #I am going to meet him three days later.

上の英文を見て「えっ?何がおかしいの?」と思われた方がいるかもしれない。が、2 の three days later は「今から3日後」という意味にはならないのである。(「今から」でなく「それから3日後」ならOK。)

実は、恥ずかしながら、私自身も大学に入るまでは、こういう場合 three days later でよいのだと思っていた。そうではなく、下のように言うのだということをアメリカ人の先生から教えてもらったのは大学の英会話の授業でのことだった。

  1. I am going to meet him in three days.
  2. I am going to meet him three days from now.

英文科志望の大学生のくせしてこんな簡単なことも知らなかったのか、と随分気恥ずかしい思いをしたのを今でも憶えている。これが私だけのことであるなら、ただ単に私の不勉強のせいということで済んでしまうのだが、毎年教えている学生のほとんどが同じ間違いをしてしまうということになると、事は深刻である。つまり、中学校で過去形と ~ ago はいわばワンセットで教えられているのに対して、未来表現と in ~ や ~ from now はセットで教えられていないということであろう。

実際、息子の中学2年のときの英語教科書を引っ張り出してきて見てみたところ、未来表現のところに出てくる英文に使われている時間表現は、tomorrow, this afternoon, next Sunday などであって、「~後」に当るものは一つもなかった。つまり、一般の中学生の時間表現の知識は

過去yesterdaylast ~~ ago
未来tomorrownext ~

のような具合になっていて、過去の ~ ago と対になるべき未来の部分が抜け落ちているということなのである。in ~ にしろ、~ from now にしろ、別に難しい単語を使っているわけではないのだから、この点はそろそろ改善があっても然るべきではなかろうかと思う。

因みに、辞書を見れば、一応このことは書いてはいる。例えば、『ジーニアス英和辞典』(第3版)を見てみると、later のところでは、three days later という例に「それから3日後」という訳がつけてあり、in の項では、「[現在を始点とする期間の終点] (今から)…の後に、…たって(⇔ ago)」という説明とともに 5 の例文とその訳が書いてある。

  1. I'll leave in an hour. (今から)1時間したら帰ろう。

しかし、辞書の in の項を隅から隅まできちんと読む学生など無きに等しいであろう(私も学生時代にそんなことをやった記憶はない)ことを考えれば、教師が時間を取って、できれば ago と対になるように印象付ける形で教えることが望ましいのではないかと思われる。

補 足

ただ、「~前」「~後」を表す英語表現の(日本人にとっての)ややこしさの問題はきちんと認識しておくべきであろう。どういうことかというと、現在を基準点にして「~前」「~後」と言う場合と、現在以外つまり過去または未来の一時点を基準にして「~前」「~後」と言う場合では、英語は表現を変えるのである。

  1. I ate that cake three days ago.
  2. When I visited him a week ago, he served me that cake. But I had eaten the same cake three days before.
  3. I think I'll be back in three days.
  4. I'm going to visit him next Sunday, and I suppose I can be back three days later.

日本語なら、どちらも「3日前」「3日後」で構わないし、現在以外を基準にした場合を敢えて区別したければ「その3日前」「それから3日後」というふうに複合的に表すこともできる。

しかも、更にややこしいことに、before と later は、以下のように単独でなら現在を基準点とした使い方ができるのである。

  1. I have eaten that cake before.
  2. I'll call you back later.

これを中学生に教えるとなると、英語ができない子はますます混乱してしまうかも、という恐れはある。

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