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雑記 2008年5月20日

put on と wear

この二つの語句の相違も毎学期必ずと言っていいほど授業の中で触れるネタである。

どちらも「着る」という訳語で憶えるためか、大半の学生はな~んとなく同じような意味と思っているようだ。実際、毎年どのクラスで訊いてみても、その違いを知っている学生はほとんどいない。

皆さんはお分かりだろうか?

きちんとした辞書をよ~く読むと書いてあるのだが、put on とは衣服などを身に着ける動作、つまり状態変化を表すフレーズである。それに対して、wear は身に着けている状態を維持するという状態持続を表す動詞なのだ。

put on と wear の違い

この違いは進行形にしてみるとよくわかる。

  1. She is putting on a red skirt.
  2. She is wearing a red skirt.

1 は、まだ彼女が着替えの最中だから、彼女のことを見たら「キャー、痴漢!」なんてことになってしまいかねない。それに対して、2 だったら、彼女も「さあ見て!この赤いスカート素敵でしょ?」ってな感じで大歓迎かも、である。

日本語の場合、「着る」という動詞は第一義的には身につける動作を表し、その後の状態はテイル形を使って「着ている」というふうに言い表す。ところが、身につける動作の最中のことも「着ている」と言う。紛らわしくて厄介ではある。これは前回も述べたように、日本語のテイルには、動作の進行を表す意味(e.g. いま雨が降っている)と動作の完了とその後の状態持続を表す意味(e.g. バスはもう到着している)があって、「着る」という動詞をテイル形にすると、そのどちらの意味にも解釈できるために起こってくる二義性なのである。それに対して、英語はこれを別の動詞で表現し分けているのである。

同様の概念のズレが get on & ride と「乗る」の間にもある。(自家用車の場合は get on ではなく get in を使う。)get on は乗り物に乗り込む動作、すなわち状態変化を表し、ride は乗った状態を維持するという意味である。だから、

  1. He is getting on a bus.
  2. He is riding a bus.

で、3 の瞬間にバスが動き出したら事故になってしまうかもしれないが、4 なら動いていても No Problem である。

補 足

このほかにも、put on & wear と「着る」の間には別次元での相違がある。皆さんご存じのように、日本語では、身につける物および身体部位に応じて、「着る」「羽織る」「かぶる」「つける」「はめる」「巻く」「履く」といった動詞を細かく使い分ける。ところが、put on & wear はこれらすべての概念領域をカバーしている。もちろん日本語だって「身につける」と言ってしまえば何にでも使えるわけだが、「今日は日差しが強そうだから、帽子を身につけて行った方がいいよ」なんて言ったら日常語としてはちょっとヘンである。つまり、動詞を細かく使い分けるのが自然なのである。それに対して、英語の場合はいちいち細かく分類しない。大雑把で味気ないと言えば味気ないのだが、外国語学習の点から言えば便利ではある。

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