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雑記 2009年11月20日

Vendler の動詞分類 3

Vendler 分類の第3回目である今回は、前回の記事の最後にちょっとだけ触れたカテゴリーの移行について説明する。

達成・活動・到達・状態という4つのカテゴリーに属する動詞は、それぞれのカテゴリーに固定して完全に動かないというようなものではなく、様々な要因によって他のカテゴリーに移行する。これは、この4分類が、表現される事柄そのものの性質と、それを我々人間の側がどのように捉えるかという解釈の仕方の両方に影響されて決まっているからである。

一番わかりやすいカテゴリー移行の例は、活動動詞に終了点の表現を加えることで達成動詞に変えることであろう。

  1. He ran for an hour.
  2. He ran 10 miles in an hour.

活動動詞は内在的終了点を持たないという点を除けば、あとは達成動詞と同じ時間構造を持っている。従って、2 のように、その終了点のあり方を 10miles のような別の句で明示する形にしてやれば、達成動詞と同じになってしまうのである。

逆に達成動詞の場合、内在的終了点がなくなるようにしてやれば、活動動詞と同じになる。

  1. He painted a picuture in an hour.
  2. He painted pictures for three days.

paint a picture のような創出動詞(creation verb)では、目的語が表す創出対象に数的限定があると《達成》の解釈になるが、4 のように、それを無冠詞複数に変えると数的限定がなくなってしまうので、《活動》の解釈になるのである。同様のカテゴリー転化が到達動詞の場合にも起こる。

  1. He arrived at the hotel at 7:30.
  2. Guests arrived at the hotel one after another for 30 minutes.

前回の記事で述べた blink や flash のような瞬間動詞の場合、事柄の性質上、1回的な動作だけではなく、繰り返し動作を表すことも容易に出来るので、主語の数を変えたり、別のフレーズを加えたりしなくても、そのままで活動動詞としての解釈ができるのである。

活動動詞の中のいくつかは、状態動詞との類縁性が高い。何故かというと、活動動詞の中には、その“活動”の最中に何か目立った動きがあるということではなく、同じ状態をずっと続けるということだけ(つまり単なる状態維持のみ)を表すものがあるからである。(そのため、「活動」(activity)という名前はこのカテゴリーを表すのにそぐわないとして、「過程」(process)という用語を使う学者もいる。)この場合、《活動》と《状態》を区別するのは、その状態の開始と終了が“視野”に入っているかどうかということだけになる。それが、一番よくわかるのは、live という動詞の、以下のような2通りの使い方である。

  1. He lives in Fukuoka.(状態動詞)
  2. He is living in Fukuoka.(活動動詞)

よく知られているように、現在成立している状態を表す場合、状態動詞は単純現在形でよいが、動作動詞は現在進行形にしなければならない。しかるに、live という動詞の場合、7-8 にあるように両方の使い方ができる。これは、居住という状態の開始と終了を“視野”の外に置く(= 7)、或いは視野の内にとどめておく(= 8)、というどちらの把握の仕方でも、現在の英語ではOKだからである。

また、stand のように、主語の種類によって把握の仕方が変わる動詞もある。

  1. He is standing by the gate.(活動動詞)
  2. The tree stands by the gate.(状態動詞)

人が主語だと、その立っている状態は一時的に維持されているだけのものとして解釈されるのが自然であるため、9 のように活動動詞として用いられる。が、木のように、動かないのが普通である物体の場合、その状態の開始や終了は“視野”の外に置かれて、状態動詞として用いられるのである。同様の例は sit や lie にもあるので、辞書で御確認いただきたい。

状態動詞が活動動詞化するちょっと特殊なケースとして、be+形容詞が進行形になるケースも挙げておきたい。

  1. He is rude.
  2. He is being rude.

10 は、「彼は無礼なやつだ」という意味だが、12 は「無礼な振る舞いをしている」ということで、この場合は、単なる状態維持と言うよりも、何がしかの“動的”な活動が行なわれているということが前提になっている。従って、同じ be+形容詞という組み合わせであっても、振る舞いとして示すことができない性質には、この種の進行形は使えない。

  1. He is tall.
  2. ×He is being tall.

例えば、14 が示すように、tall という性質は、何か動的な振る舞いとして示すことができるようなものではないので、活動動詞化して進行形にすることはできないのである。

補 足

活動動詞に関して、開始と終了を“視野”の内に入れている、と述べたが、このことと達成動詞で言う「内在的終了点」という概念はきちんと区別しておかねばならない。後者は、どのような状態になればその動作が終了になるかということが語句の中に明示されているということである。それに対して、活動動詞は、そのような終了点は持たないが、動作動詞である以上、その動作がどこかで終了するということは前提にされているのである。それゆえ、動作動詞の終了点には概念的に2つの種類が存在するということである。

それから、“視野”という言葉を使ったが、これはもちろん、文字通りの意味(視覚の範囲)で使ったのではない。事物を概念化して捉える際の、その概念化の範囲という意味で用いたのである。我々は、様々な事物を概念化し、言葉として表現することができるが、その際に、事物の持つ特徴のすべてを概念内容の中に取り込んでいるかというと、そういうわけではない。個々の語句を用いる際に、その語句に特有の取捨選択が行なわれているのである。上に挙げた例で言えば、「住んでいる」という状態に、客観的に見て、開始と終了があるかどうかということとは別に、その開始と終了を概念内容の中に取り込んだり、敢えて無視して概念化したりするということが(少なくとも英語では)あるということである。

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