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雑記 2009年11月16日

Vendler の動詞分類 2

前回は、Vendler 分類のうち達成動詞と活動動詞の特徴を取り上げたが、今回は到達動詞(achievement)について述べてみたいと思う。「到達」(英語の achievement もそうなのだが)という名前の付け方は、いささかわかりにくい命名法ではある。「達成」や「活動」はその内容をわりとよく表しているように思われるが、「到達動詞」と言われてみても、それだけでは、具体的にどのような事態を表すものなのかが、普通はイメージできないからである。

到達動詞のポイントは、それが直接に表している事態が瞬間的にしか生起しない、つまりほんの一瞬で起こる出来事を表しているということである。下の 1 で言えば、arrive というのは、ある場所に到着するその一瞬を表す動詞なのである

  1. He arrived at the hotel at 7:00.
  2. a. (?)He was arriving at the hotel at 7:00.
    b. He was painting a picuture in his room at 7:00.
    c. He was walking in the park at 7:00.

従って、1 のようにある時点を指定して、その時点で「到着した」というふうにいうのは何の問題もないが、2 のように進行形にした場合、達成動詞や活動動詞のときと同じような意味(動作の進行中)には解釈されない。図3にあるように、進行形というのは、動作の始まってから終了までの中の一部分のみを表す語形であるが、到達動詞の表す動作は一瞬の間に起こるものとしてイメージされているものなので、それが“進行中”ということは考えにくいわけである。

  1. 達成動詞・活動動詞の進行形化:

では、到達動詞は進行形にならないのか、というとそうでもない。但し、特殊な解釈で用いられるのである。それは、「もうすぐ~しそうだ」「~しかけている」という意味である。

  1. The train is arriving at the station.
  2. The bus was stopping when a man jumped off.
  3. He was dying when we got to the hospital.

arrive, stop, die などは、通常その動詞が直接に表す(一瞬の)部分のほかに、そこに至るまでの前段階の存在を含意する。そして、進行形になるとその前段階の途中であるという意味を表すのである。つまり、ここで「動作の途中・進行中」という進行形の本来の意味から少しだけ逸脱が起こっているのである。

  1. 到達動詞の進行形化:

そしてこの前段階の途中という逸脱が時間的に更に拡張され、また他のタイプの動詞にまで拡大すると進行形の未来用法に発展する。(という説明は、実は私自身の考えで、別に定説というわけではない。が、たぶんポイントをはずしてはいないと思う。)

  1. I'm leaving tomorrow.
  2. He's going to London next month.

ただ、注意しておかねばならないのは、進行形の未来用法は基本的にくだけた響きを持っており、話し言葉を中心にして用いられ、フォーマルな文章の中などでは使われない、ということである。また逆に、くだけた話し言葉では、「進行中」という本来の意味との混同が起きない限り、will や be going to よりもむしろよく使われているようである。(中学校の英語の授業でこの点にあまり触れると、生徒に混乱を引き起こすかもしれないが、コミュニケーション主体・実用性重視ということで言うなら、中学校段階、それが無理なら高校できちんと教えておくべきことではある。少なくとも、私自身はきちんと教わった記憶がない。)

到達動詞に関してはもう一つ触れておかねばならないことがある。実は、到達動詞には、動作の瞬間に至るまでの前段階の存在を含意する arrive のようなタイプと、そのような含意を持たず、単に瞬間的に起こる事態を表すだけのタイプがあるのである。(そのため、このタイプを到達動詞とは別に「瞬間動詞」と呼ぶ学者もいる。)

  1. a. The light flashed.
    b. The light was flashing.
    c. The light flashed for a while.
  2. a. He blinked.
    b. He was blinking.
    c. He blinked for a while.

このタイプは、b のように進行形にすると、ほとんどの場合、その動作を繰り返していることを表す。それは、c にあるように、この種の動詞が一回的動作から「繰り返し」の解釈に容易に移行できるからである。そしてこの場合、前置詞 for を用いた時間フレーズが使えることからもわかるように、活動動詞にカテゴリー移行していると考えてよい。

Vendler 分類におけるカテゴリー移行については、次回詳しく取り上げることにしたい。

補 足

日本語の場合、到達動詞にテイルをつけると、「進行」ではなく、「完了(後の状態)」の意味になる。(以前に書いた過去完了形と「~ていた」及び「彼は6年間死んでいる」?も参照のこと。)

  1. 電車が到着している。(≠ The train is arriving.)
  2. バスが止まっている。(≠ The bus is stopping.)
  3. 彼は死んでいる。(≠ He is dying.)

特にこれらの動詞は、主語の一方向的状態変化を表すので、「完了」の意味と馴染みやすいという事情があるのである。

つづく

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