LingLang
古賀恵介の部屋

ホーム雑記一覧 > 雑記 2009年11月13日

雑記 2009年11月13日

Vendler の動詞分類 1

言語学、特に意味論の世界でよく知られている動詞分類法に、Vendler 分類というのがある。米国の Zeno Vendler という哲学者が1967年に発表した Linguistics in Philosophy という本の中で提唱したもので、それ以後、動詞の意味や時制・アスペクトの問題を論じる際にはほとんどと言っていいくらいによく論究される分類法である。

どういうものかというと、動詞(というか述語)の表す事態(平たく言えば、「出来事」)というのは、その時間的特徴から、達成(accomplishment)・活動(activity)・到達(achievement)・状態(state)の4つに分けることができるというものである。

  1. 達成(accomplishment):
     He painted a picture in an hour.
  2. 活動(activity):
     He walked for an hour.
  3. 到達(achievement):
     He arrived at the hotel at 7:00 p.m.
  4. 状態(state):
     He was sick for three days.

英語の動詞分類と言えば、進行形になるかならないか、ということを判断するための動作動詞と状態動詞の区別がよく知られているが、Vendler 分類は、このうちの動作動詞を更に3つに分けたものなのである。で、このような分類が一体何の役に立つのか、ということが問題になるのだが、これが意外に面白いのである。

まずもって例文 1 と 2 の時間表現の部分を見ていただきたい。in と for という異なる前置詞が用いられている。達成動詞というのは、予め決まった終了点(内在的終了点と呼んでおこう)に向かって進んでいく出来事を表すものである。従って、1 で言えば、1枚の絵が描き上がった状態が終了点であり、1 は、そこに至るまでの経過時間が1時間であったことを in という前置詞を用いて表している。それに対して、活動動詞は、内在的終了点を持たず、均一な動きや状態がずっと継続していくことを表すもので、2 では、その継続時間が1時間であったことが for という前置詞で表されている。このように、経過時間(e.g. in an hour)と継続時間(e.g. for an hour)の意味的な違いを概念的にきちんと説明するのに、この達成動詞と活動動詞の区別が非常に有効なのである。

それだけではない。次の現在完了形の例文を見ていただきたい。

  1. a. He has painted the picture
    b. He has been painting the picture.
  2. a. He has studied English for three years.
    b. He has been studying English for three years.

現在完了形には、完了・結果・継続・経験の4つの用法があると言われている。このうち、経験用法と結果用法はここでは関係ないのでおいておく。すると、5a の文は、「もう描いてしまった」という完了用法、5b の完了進行形の文は「まだ描き続けている」という継続用法と解釈されるのが普通である。ところが、6 の文はどちらも継続用法として解釈することが可能である。この問題は中学生や高校生でも気がつくことがあるようだが、そういう疑問をぶつけられたときに、中学校や高校の英語の先生たちは果してきちんと説明しておられるだろうか?

この問題も、5 が達成動詞で、6 が活動動詞の例であることがわかれば、その違いが明確にイメージできるようになる。達成動詞は内在的終了点があるので、単純な完了形にすると、その終了点に達してしまったこと、つまり動作の終了を意味することになる。それに対して、完了進行形にすると、その動作がまだ終了点に達しておらず、継続している、という意味になる。一方、活動動詞は内在的終了点を持たないので、6a のような単純完了形にしても、必ずしもその動作の終了を意味しない。その結果、実質的に、6b の完了進行形と同じ状況(「まだ動作が継続している」)を表すことができるのである。

もちろん、6a と 6b の間に何の意味の違いもないというわけではない。6a のように単純完了形にすれば、やはり「3年間も勉強した」というこれまでの積み上げに重点を置いた表現になるし、6b のような完了進行形は「現在に至るまで継続している」ということの強調になる。しかし、いずれにしろ同じ状況を表すことができる、というところがポイントである。

study という動詞が出てきたので、ついでに言うと、study と、「習う・学習する」の意味を表す動詞 learn の間にもここで述べた時間的特質の違いが存在する。

  1. He studied English.
  2. He learned English.

study は活動動詞であるのに対して、learn は「あるレベルへ達するまで学習する、知識や技能を習得する」ということを表す達成動詞である。(但し、learn に関してはこちらも参照のこと。)従って、He learned English と言えば、通常は、英語が上達して或る程度のレベルになった、ということを意味する。それに対して、study には「上達」とか「レベルの向上」というような意味合いは含まれていない。

更にもう一つついでに言えば、以前に触れた put on と wear の違いは、その時間的特性で言えば、達成動詞と活動動詞の違いだということになる。

補 足

因みに、日本語でも in an hour は「1時間」、for an hour は「1時間の間」のように表現し分ける。この区別は基本的にどの言語でも見られるようである。というか、この Vendler 分類は、事態というもののの概念化の非常に根本的なところに関わる区別であるようで、いろいろな言語の文法・語法に様々な違った形で顔を出すことが知られている。

つづく

雑記一覧へ

更新情報

2016年9月12日NEW
ページデザインを一新しました。
2013年7月1日
言語論下のページを改訂しました。
2009年11月23日
認識論下のページを改訂し、社会と文明共有認識を追加しました。
2009年11月12日
子育て認識の自由性を追加しました。
2009年11月9日
認識論を追加しました。