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雑記 2008年6月3日

know の二義

英語の know も日本語の「知っている」も目的語に実体(モノ)表現と事態表現の両方をとることができる。例えば、

  1. I know him.
  2. 私は彼を知っている。
  3. I know that he passed the exam.
  4. 私は、彼が試験に合格したことを知っている。

それゆえ、日本人にしても英語話者にしても、know のこの二つの使い方に質的な相違があるとは感じないの普通である。

ところが、大学に入って第2外国語でドイツ語やフランス語やスペイン語をとると、この二つの場合を違った動詞で表すという事実に遭遇し、面食らうことになる。

  1. I know him.
  2. Ich kenne ihn. (ドイツ語 kennen
  3. Je le connais. (フランス語 connaitre
  4. (Yo) Lo Conozco. (スペイン語 conocer
  5. I know that he passed the exam.
  6. Ich weis, das er die Prufung bestanden hat. (ドイツ語 wissen
  7. Je sais qu'il a reussi a l'examen. (フランス語 savoir
  8. (Yo) Se que el paso el examen. (スペイン語 saber

この二つは通常、「経験的・体験的に知っていること」と「知識として持っていること」というふうに説明されることが多い。まあ、それでも間違いではないのだが、それだけでは、この二つの使い分けはピンと来ない。かと言って、「前者は名詞句を目的語に取り、後者は節を目的語に取ります」などと言ってみても、そもそも何故そうなるのか、という点を明らかにしていない。これでは事の本質がわからず、語法の説明として隔靴掻痒の感がある。

では、この二つはそもそも何が違うのか。それは、人間と知る対象との関係のあり方の違いである。

(A) 《実体》を知っている
この場合は、対象となる人や物事について何らかの知識を持っているということを表している。例えば「彼を知っている」と言えば、彼の名前や顔、背格好、性格、職業、家族構成、出身地といった彼に関する情報(の一部)を持っているということである。それゆえ、その知識の中身がどういうものであるかについては、「彼を知っている」という表現そのものには現れてこない。それを表そうとすれば、「名前でのみ知っている」とか「顔は知っている」などといった表現を使うことになる。
(B) 《事態》を知っている
この場合は、知っている情報の中身を問題にする。「彼がスポーツ万能でなかなかのイケメンであること」とか「彼が先日結婚したこと」といった情報の中身そのものを言い表す形式なのである。日本語では「~ことを知っている」「~のを知っている」「~かを知っている」(間接疑問の場合)といった統語形式が用いられるが、動詞そのものは(A)の場合と同じく「知っている」である。

つまり、簡単に言ってしまえば、(A)は知識の対象との関係を表し、(B)は情報の中身との関係を表す用法ということである。英語も日本語も、この両方の意味に関して、動詞部分は同じで、目的語部分の統語形式で区別するのだが、ドイツ語やフランス語やスペイン語は異なった動詞を使い分けることで区別しているのである。目的語部分の統語形式の違い(名詞句 or 節)も(A)と(B)という意味構造の反映と考えれば、すっきりと理解できる。

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