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雑記 2008年5月26日

know と「知る」

前回は、put on & wear と「着る」の違いを取り上げたが、これと似たような相違が know と「知る」の間にもある。

英語の know は状態動詞の代表格であり、「知っている」という状態を表す。ところが、「知らない状態から知っている状態への変化」の部分は通常表さないのである。それに対して、日本語の知るは、第一義的にはこの変化の部分を表す。

knowと知るの違い

だからこそ、know の訳は、通常「知る」ではなく「知っている」となるし、1 を 2 のように訳すと意味が違ってきてしまう。

  1. そのニュースを昨日知った。
  2. I knew the news yesterday.

2 は普通は「昨日すでにそのニュースを知っていた」という意味になるのである。

では、「昨日知った」という変化の部分を表すにはどうしたらよいか?これも、毎学期どのクラスでも尋ねる問題なのだが、正解はほとんど出てこない。

  1. I learned the news yesterday.
  2. I learned just yesterday that he passed the exam.
  3. I got to know just yesterday that he passed the exam.
  4. I came to know just yesterday that he passed the exam.

などである。get to know や come to know はいいとして、learn は意外に思う方もいるかもしれない。learn は、もちろん、まとまった知識や技能を習得するという意味もあるが、単に「情報を得る」という場合にも用いるのである。ところが、learn という語を「学習する」という訳語との一対一対応でのみ憶えていると、こんな使い方があるということに思い至らない。

尤も、上に「第一義的に」と断っているように、ここで述べている know と「知る」の「状態 vs. 変化」という対照も常に成り立つとは言い切れない。know の例では、

  1. I suddenly knew the answer.

のように変化の部分を表しているように見える例があるし、「知る」の場合も、

  1. この秘密を知る者はすべて始末せよ。
  2. この秘密を知っている者はすべて始末せよ。

8 と 9 に意味上大きな違いがないことからもわかるように、5 の「知る」は変化の部分ではなく「知っている」という状態部分を表していると考えられる。(この手の例外的解釈は連体修飾の場合に特に多いような気がする。)こういういい加減な柔軟なところが言語の意味の面白さではあるのだが、理屈どおりのすきっとした説明を求めるものにとっては厄介極まりないと言うべきか。

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